
2025/06/06
【格闘メディア企画 ーこの試合に何を想う-】 壱・センチャイジム vs 森岡悠樹
6・22国立代々木競技場第二体育館
「打撃格闘技の最高峰を体現する」KNOCK OUTのビッグマッチ『THE KNOCK OUT』
4大タイトルマッチを含む超注目試合をより楽しんでいただくため
名だたる格闘メディアにコラム執筆を依頼、
第2弾はバウトレビュー 井原芳徳氏のコラムを公開!
井原芳徳氏には
KNOCK OUT-REDスーパーバンタム級タイトルマッチ
「壱・センチャイジム vs 森岡悠樹」がどう映るのか。是非ご覧ください。
ダウンの応酬、再び?
千裕新規のファンに「これがKNOCK OUTだ」と稲妻を落とすOFGマッチ。
KNOCK OUTは2023年3月、宮田充プロデューサー体制初のビッグイベントで国立代々木競技場第二体育館に初進出した。山口元気氏がプロデューサー復帰後の昨年6月にも代々木第二で開催し、12月の横浜武道館大会を経て、今年6月22日、3度目の代々木第二大会を迎える。大会名は「THE KNOCK OUT」。山口代表は「RED・BLACK・UNLIMITED、全てのKNOCK OUTのルールを並べて、これがKNOCK OUTだというものをシンプルにファンの皆さんに見せる」と、大会コンセプトを説明している。
23年・24年と2年連続で代々木大会のメインイベンターを務めた鈴木千裕は、その後、RIZINの大晦日のクレベル・コイケ戦、3月の香川でのカルシャガ・ダウトベック戦、そして5月4日の東京ドームでの朝倉未来戦と、過密日程で過酷な戦いを重ねた影響で満身創痍となり、今回は出場できない。千裕はチャンピオンベルトを失い、3連敗を喫し、弱音を吐くこともあった。だが、どんな過酷な状況でも立ち上がり、前に進み、逆転のチャンスを模索し続け、RIZINファンを感銘させた。
「knock out」という英語は「たたきのめす」「打ち勝つ」という元の意味から派生し、俗語的に「素晴らしい」「仰天させる」という意味でも使われる。千裕は試合でKO勝ちできなかったが、試合内容でも一つ一つの言葉でも、RIZINファンをknock outしたといえよう。
5月4日の東京ドームには、朝倉未来をはじめとしたJAPAN TOP TEAM勢、ライバルの平本蓮率いるBLACK ROSE勢を応援する、いわゆる「アサシン」「ヒラチル」と呼ばれる10代から20代の新世代のファンでごった返していた。両陣営の対立構図の外に鈴木千裕はいるが、両陣営のファンからも一目置かれる存在となった。
そんな千裕の活躍でKNOCK OUTを意識したRIZINファンに、KNOCK OUTの入門編として最適なのが、今回の代々木第二での「THE KNOCK OUT」だ。なかでもKNOCK OUT-REDスーパーバンタム級(55kg)タイトルマッチ、壱(いっせい)・センチャイジム(王者)対 森岡悠樹(挑戦者)は、ルール設定、両者のファイトスタイル、これまでのストーリーを考えれば、一番の衝撃を与える試合となる可能性が高い。
この試合で採用される「REDルール」は、肘ありで、首相撲でも攻撃を続けていればブレイクされない立ち技のルールだ。一方の「BLACKルール」は肘なしで、首相撲からの攻撃は1回で、RIZIN・RISE・K-1で通常行われているルールに近い。REDルールはKNOCK OUTの前身のREBELS(レベルス)の本流のルール、旧体制のKNOCK OUTのルールを継承している。近年はONEのムエタイルールがオープンフィンガーグローブ(OFG)着用で行われ、多くの強豪が参戦し、ニュースタンダードになりつつあることから、昨年12月からREDルールもOFG着用に衣替えした。
壱と森岡も昨年からONEでOFGムエタイを経験済だ。壱はONE 3戦2勝1敗で、今年2月の2戦目では中国の選手に1Rに2ダウン奪われるも、2Rにサウスポーからの左ストレートで逆転KO勝ちし、約160万円のボーナスを獲得した。4月のタイの選手との試合は1Rと2Rにダウンを奪われ判定負けしたが、3Rに左ストレートでダウンを奪い返して見せ場を作った。森岡は昨年5月、イランの選手に1R序盤、左ストレートでダウンを奪われたが、中盤、得意のノーモーションの右ストレートでアゴを打ち抜き逆転KO勝ちし、ボーナスを獲得している。
そんな壱と森岡は過去KNOCK OUTで3度対戦し、壱が2勝1敗と勝ち越している。21年8月、新宿FACEでのルーキー主体の大会での初対決では、接戦で迎えた最終3R、壱が左ミドルを効かせてから左の肘打ちでダウンを奪い判定勝ちした。22年11月の後楽園ホール大会での、第2代REDスーパーバンタム級王座決定トーナメント決勝での再戦では、5R制の伝統的なムエタイの戦いに慣れた壱が、4Rからじわじわ左ミドルのヒットを増やして判定勝ちした。
そして昨年12月の横浜武道館大会、国内5つの団体・プロモーションの上位8選手が集まって行われた55kgトーナメント「KICKBOXING JAPAN CUP 2024」の決勝に、KNOCK OUT推薦の2人が勝ち残ると、2Rから大荒れの展開に。壱が開始すぐから左ストレートを効かせ、パンチラッシュでダウンを先取したが、立った森岡は打合いで右ストレートを当てダウンを奪い返し、さらに左ストレートで2ダウン目を奪う。ところが壱も左ストレートでダウンを奪い返し、両者残り1ダウンでKO負けという瀬戸際の展開に。だが余力のあった森岡が、壱をコーナーに詰めてのパンチ連打でKO勝ち。トーナメント優勝を果たし、賞金300万円を獲得した。
とはいえ森岡は、まだ壱を相手に1勝2敗と負け越しており、チャンピオンベルトは獲得していない。4月の後楽園大会でホープの乙津陸を1R右ストレートでKOした森岡は、試合後のマイクで壱に6月の代々木大会でのタイトルマッチを要求し、壱も了承した。当初、森岡は空位のBLACKルールの王座決定戦を希望し、結局、山口プロデューサーの判断で壱のRED王座を懸けての試合に落ち着いた。これまで2戦がREDルールだったことを考えれば妥当な判断だろう。
そして過去2戦との違いはOFG着用なこと。2人ともONEのOFGマッチでダウンの応酬の末に逆転KO勝ちした実績がある。12月の3度目の対戦はボクシンググローブだったが、2人で合計5度のダウンを奪い合う死闘だった。それが今回、OFGとなり、チャンピオンベルトが懸かれば、自ずとこれまで3戦以上の修羅場がイメージできるはず。千裕がきっかけで新規にKNOCK OUTを知ったRIZINファンに、「これがKNOCK OUTだ」と稲妻を落とす試合となりそうだ。
執筆
バウトレビュー
井原 芳徳