2021/11/09
小笠原瑛作インタビュー|「スピードアクター」本領発揮! カザフスタンで主演映画の撮影完了!
「スピードアクター」本領発揮! カザフスタンで主演映画の撮影完了!
KNOCK OUT-REDスーパーバンタム級王者・小笠原瑛作(クロスポイント吉祥寺)は学生時代に演技を学んで舞台出演の経験もあり、キックボクシングでも「スピードアクター」の異名を取ってきた。その小笠原の主演映画「阿彦哲郎物語・第二の太陽」が撮影完了! カザフスタンと日本の共同制作によるもので、撮影は全編カザフスタンで行われたという。小笠原が演じるのは主役の阿彦哲郎役で、15歳の時に樺太でロシア政府に逮捕され、カザフスタンの強制収容所に送られて日本への帰国が叶わなかった彼の過酷な運命を体を張って演じている。8月から9月にかけて1ヵ月間カザフスタンに滞在し、撮影を終えてきた小笠原に、撮影での様子やカザフスタンでの生活などについて聞いた。
〈聞き手/高崎計三〉
-- そもそも今回、どういった経緯で主演が決まったんですか?
小笠原 元自衛官でプロボクサーの清水聡さんという方とトレーニングで一緒になったのが最初のきっかけなんです。清水さんの元上司に、自衛官をやりながら映画監督もされている佐野伸寿さんというちょっと変わった経歴の方がいて、その人が次に撮る映画の主演俳優を探していると。佐野監督は過去にカザフスタン大使館でも長いこと勤めていた経験もあって、今回の作品は阿彦哲郎さんという実在の人物をテーマにしたものなんですね。その主役の阿彦さん役で、年齢的には20歳から25歳ぐらい。シベリア抑留での過酷な労働で体重が半分に減っちゃうとか、そういうシーンを再現できるように減量ができる役者さんがいないかと。
-- そんな人はなかなかいないでしょうね(笑)。
小笠原 僕は多摩美術大学で俳優の勉強をしていたことを過去の記事なんかで発信していたので、それを思い出した清水さんが「いますよ!」ということで佐野監督を紹介していただいたんですね。それでお会いしたら、背格好も阿彦さんとほぼ似ていて、減量もできて、過酷な撮影現場でも耐えられるということで、「お前しかいない!」となってオファーが来ました。
-- 言っといてみるもんですね。
小笠原 そうですね、「夢は叶う」とはまさにこのことで。俳優をやりたいなんて言ってたら、まさかそんな繋がりが来ると思ってなかったですから。初めての映画出演で主演を飾って、しかもカザフスタンという大きなところでできたというのはうれしいですね。
-- 今回、1ヵ月間カザフスタンに行かれていたそうですが、撮影はそれで全部終了したんですか?
小笠原 はい。2年前にまず1回目の撮影があって前半部分を撮って、そんな中でコロナになってしまって、ちょっと撮る時期が遅れてしまい、今回何とかカザフスタン政府が許可を出してくれたので、無事に撮り終えたという感じです。前回は捕らえられる前の日本での生活のシーンが多くて、捕らえられるまでを撮影して。今回の撮影は前回より日数も長くて、強制収容所での過酷な労働のシーンも多かったので、今回の方がキツかったですね。
-- 前半部分を撮ってから約2年間空いたわけですね。不安もあったのでは?
小笠原 正直、まずは映画が完成するのかなというところが大きかったですね。完成しないまま終わっちゃうんじゃないかと。2年前行った時には、阿彦さんご本人にもお会いできたんです。日本に帰って来れなくて、15歳の時に捕らえられてからずっとカザフスタンに住んでるので、日本語はほぼ話せないんですよ。でも僕に会ったら「寒くないですか」って声をかけてくれて……やっぱりそういう、日本人の部分が残ってて。この2年間の間に亡くなられたんですけど、それだけにこの映画をしっかり完成させたいと思ったし、阿彦さんのことを発信して伝えないとという思いが自分の中ですごく芽生えました。そういう意味でも今回撮り終えて、日本に帰ってこれた時には「ひと仕事できたな」って思いました。
-- 1ヵ月間カザフスタンに行って、撮影時間はどれぐらいだったんですか?
小笠原 撮影日が17日間あって、だいたい1日15~16時間やってました。長いんですよ(笑)。しかも、カザフスタンでは「順撮り」って言って、話の順番に撮影していくんですよ。しかも例えば2人の会話のシーンでも、いちいちカメラが移動して撮るので、時間もかかるし待ち時間も長くなるんです。
-- いろいろ大変そうですね。
小笠原 大変でした(笑)。当時の人たちは足かせに重りをつけられた状態で何年も過ごしていたから、外された後も歩き方が戻らなかったらしいんですね。だから収容所のシーンでは普通の歩き方じゃダメだということで、「ちょっと靴の中にこの石を入れてください」と尖った石を入れられて。格闘家だからこそできるムチャ振りだったんじゃないですかね(笑)。そういう意味でも、僕に適した役だったんじゃないかと思います。
-- アクションなら分かりますけどね(笑)。
小笠原 何よりも面白いのは、僕の役って、ほぼセリフがないんですよ。
-- そうなんですか!
小笠原 なぜかって言ったら、当時ちょっとでも歯向かったり不用意にしゃべったりした人が次々に殺されていく中、阿彦さんは自分の存在を消して、ほぼ誰ともしゃべらずに、小さく小さくなって生きてきたからこそ、生き延びられたんじゃないかと。だからほぼセリフがなくて、しかも僕には台本すら渡されないんですよ。どんなシーンをやるかを毎日知らないという(笑)。
-- ええっ!
小笠原 だいたいのストーリーは2年前にもらってるんですけど、それもずいぶん変わっていて、撮影現場に向かう途中で「小笠原さん、今回はだいたいこんな感じです」と説明を受けるんです。で、現場で「このシーンは……」って撮影の直前に監督に言われて、そこで僕はどういう演技をすればいいのかというのを初めて知ると。後から監督に聞いたら、「当時、阿彦さんは日本からいきなり訳も分からず捕らえられて、もちろんロシア語なんか分からないし、そんな状況で生かされたわけですよね。だから小笠原さんも訳分かんなくていいんですよ」と(笑)。
-- そう言われても(笑)。
小笠原 周りの人たちのロシア語のセリフも分からない中、「こんな感じで演じてください」ってやってたので、そういうリアルな部分はちょっと映画に出てるかなとは思いますね。
-- リアルに困惑してたわけですね(笑)。しかし俳優デビューからえらく貴重な体験をしてますね。
小笠原 本当ですね。佐野監督もいい意味で変わってる映画監督で、今までもプロの俳優さんはあまり使わず、素人さんを使ってちょっとドキュメンタリーに近いようなリアルな演技を求める方なんですよ。「何がよかったかって、小笠原さんが格闘家という“本物”だからよかったんですよ」って言っていただいたんですけど、僕はまだ俳優の卵だし経験も少ししかないじゃないですか。何しろ本職はキックボクシングなので。でも監督が表現したかったのは、そういう“本物”のところだったんでしょうね。
-- 撮影スタッフはカザフスタンの人たちだったんですか?
小笠原 そうですね。カメラマンもエキストラも現地の人たちだったので、現場でも英語はほぼ通じなかったですし。みんな話しかけてはくれるんですけど、和気あいあいという感じではなかったですね。今回、日本から行ったのは僕と監督、日本人プロデューサーの3人だけでした。妻役の女優さんは日本でのシーンだけだったので、前回で終わっていて。
-- では本当に、いろいろ不安があった中での撮影だったんですね。
小笠原 ありましたね(笑)。自分の演技も「これでいいのかな?」と思って、最後までちょっと首をかしげながらやってたものあるし、「今のでハマったの?」みたいな感じで、困惑しながらやってました。
-- 過酷なシーンの撮影が多い上に、精神的にも過酷だったんですね。
小笠原 一番キツかったのは、カザフスタンも夜になるとけっこう冷えてくるんですけど、その中で雨のシーンがあったんですよ。すっげえ寒い中で全身に雨を浴びて、ストーブもない中でブルブル震えながら待たされて、“順撮り”だからまたカメラの位置を変えて雨の中に立って……みたいな。監督が「他の日本の俳優さんだったら文句言ってますよ。小笠原さんでよかった」なんて言ってて(笑)。僕も全然それがイヤだってわけじゃないし、本当にいい経験になったし、むしろリアルに「寒みー!」って震えられたかなみたいな(笑)。
-- ではひと通り撮影を終えて、「手応えあった!」という感じではないんですか。
小笠原 自分では、完成するまで「どうなんだろう?」っていうのはありますね。自分の演技をモニターでチェックするとかもしてないですし。だから映画館に来てもらわって、お客さんが僕の演技をどう見るかですよね(笑)。
-- 今、まさに編集などの作業中なんですね。
小笠原 編集は全部カザフスタンで進んでいます。今回はカザフスタンと日本の共同制作で、監督も日本側とカザフスタン側の2人いるんですよ。それで編集とかの作業は全部カザフスタンでやっていて、現地では12月に公開される予定です。今回、カザフスタン側が出している制作費がすごい額なんですよ。
-- そう言えば日本でのシーンも、カザフスタンに日本の街並みのセットを作って撮影したらしいですね。
小笠原 いやもう、すごかったですよ! 日本じゃちょっとここまではできないだろうなっていうぐらいの。収容所や炭鉱のセットもすごくて、ハリウッドみたいな感じでしたね。そんな中で、訳分かってない俺が演じてるけど大丈夫?みたいな(笑)。セリフもこんな少なくていいの?とか。
-- その少ない中で、カザフスタンの役者さんとの絡みもあったんですか?
小笠原 もちろんあります。ぶん殴られたりとか、蹴っ飛ばされたりとか。映画の中で、小笠原瑛作がどんどんボロボロになっていきますから(笑)。「試合でもこんなにやられたことないのに~!」とか思ってました(笑)。でも逆に、こんなのが本当に演じられるのは僕だったからだと思うし、ちょっとぐらい殴られてもいいよと思いながらやってた部分あるんで。よけずに受けなきゃいけないっていうのが、ちょっと難しかったですけどね(笑)。
-- オフの日はけっこう体を動かしたりもできたらしいですね。
小笠原 深夜撮影の次の日はヘロヘロだったり、挨拶回りとかもあったりしたんですけど、カザフスタンの皆さんは格闘技大好きで、すごく根付いてるなという感じでしたね。巨大なジムを監督に契約していただいて、そこでウェートトレーニングやったりとか、サンドバックがあるところを見つけてもらって叩いたりはしてました。あとは撮影に行く前に走ったりとか、できることはやってました。
-- でも撮影も過酷だったようなので、休養が優先ですよね。
小笠原 そうですね。また昼間はすごく暑くて、その中で強制労働のシーンを撮影したりとか、夜は夜で逆に急激に寒くなるので、本当に体調を崩さないように注意しながらやってました。だからオフは体調維持に加えて、その環境の中で自分ができる練習をやるという感じでしたね。でも本当に佐野監督が、僕に合った日本食を探してきてくれたりとか、そういうサポートはしていただいたので、すごく助かりました。
-- カザフスタンの街並みや人々はどうでしたか?
小笠原 今回僕が行ったのは旧都市なんですけど、街並みもすごく綺麗で、物価も日本の3分の1とかなので、すごく住みやすい街ですよね。カザフ「スタン」ってつくから、アフガニスタンとかを連想して危険なイメージがあって、大丈夫なの?なんて聞かれることも多いんですけど、「スタン」というのは「土地」みたいな意味なんですよ。カザフスタンはすごく住みやすいし、また現地の人々も本当にみんな優しくしてくれて、住んでもいいんじゃないかなって思えるぐらいオススメできるところですね。
-- そうなんですね。
小笠原 映画の交流も盛んになってきていて、去年は森山未來さん主演で、カザフスタンと日本のダブル監督で「オルジャスの白い馬」という作品を制作されているんですよ。だから僕のが共同作品という意味では第2弾ということで。森山未來、小笠原瑛作という並びになってます(笑)。でも森山未來さんはしっかりとカザフ語を勉強して、劇中でもカザフ語をカッコよくしゃべってるんですけど、僕はほぼしゃべってないという(笑)。
-- いやいや、胸を張っていいと思います(笑)。
小笠原 でもコロナ禍になって、僕が行けないかもしれないという中で、代役を立てようかとか、ストーリーを変えて対応しようかなんていう話まで出たらしいんですよ。でも、カザフスタンのスタッフの人たちが僕のことを待ってくれて、「いや、小笠原くんでいきましょう」っていうことで全面サポートをしていただいたので、そういった意味ではカメラマンの人、カザフスタン側の監督とプロデューサーさんには、すごくよくしてもらったなあと思います。
-- 日本では3月公開予定ということなんですか?
小笠原 現時点での「予定」です。今、監督と話しているのは、僕は吉祥寺に生まれて小中高と全部吉祥寺で、今もクロスポイント吉祥寺所属なので、そんな吉祥寺から発信していくのはすごくいいんじゃないかなと。吉祥寺から世界に羽ばたいて映画に出たっていうようなことは過去にないから、吉祥寺から発信していきましょうという話をしています。それに、阿彦さんの物語を多くの人に知ってほしいというのもあります。僕が今回出た映画によって、少しでも何かに繋がればいいなと。
-- しかも、今回の撮影で格闘家としても視野が広がったと。
小笠原 カザフスタンの人たちも、武士道とか日本のサムライのこととかがすごく好きで、僕が日本人と分かると盛り上がって、『KNOCK OUT』のことも知ってくれている人がいたりして。そこでふっと思ったのは、日本の格闘技のコンテンツを、もっと広げていくことはできるんじゃないかと。YouTube一つ取っても、今は世界が近くなってるじゃないですか。だったらもっと、世界に向けて日本格闘技のコンテンツを発信していきたいというのを目標にしていこうと、カザフスタンの、中央アジアの大きな空を見て、ふと思ったというところはありますね。いずれはカザフスタンでも試合をしたいし、そのためにも負けられないなという気持ちも強くなりました。
-- 同時に役者としての今後はいかがですか?
小笠原 今回カザフスタンで主演という貴重な経験をさせてもらって、今、僕はタイ語をメチャメチャ勉強してるんです。今、タイのドラマシリーズがすごく熱いんですよ!
-- 知ってます(笑)。
小笠原 次はタイでドラマシリーズに出られないかなって思ってるんですよね。もちろん、日本でも映画とか舞台の話は大歓迎だし、やりたいんですけど、ちょっとグローバルなとこで見たらタイでやりたいなと。
-- タイのドラマというと、BLものが人気だったりしますが……。
小笠原 そうですよね(笑)。そういうのに出てもいいですけど、これまでもタイと交流があって、ジムでの先生もずっとタイ人なので、今はタイにちょっとビビッと来てるんですよね。タイにムエタイ留学してきた日本人の役とかでいいんで、絶対やろうと思ってます!
-- 実現したら面白いですよね。その日をお待ちしてます。
小笠原 絶対やりたいです! オファーお待ちしてます!
プロフィール
小笠原 瑛作(おがさわら・えいさく)
所属:クロスポイント吉祥寺
生年月日:1995年9月11日
出身:東京都武蔵野市
身長:171cm
戦績:45戦38勝(20KO)6敗1分
KNOCK OUT-REDスーパーバンタム級王者/ISKA世界バンタム級王者(K-1ルール)/WPMF世界スーパーバンタム級王者