「OFGに向いてない? そんなことはないですよ」壱、渡口耀を迎え撃つベテランの戦い方と新たな挑戦
8月に乙津陸とのWBCムエタイ王座防衛戦を制した壱が、次に挑むのは勢いに乗る若手・渡口耀との一戦だ。
乙津戦では判定2-1で防衛に成功したものの、本人にはダウンを奪えなかった悔しさも残った。一方、グローブムエタイでは約13ラウンドにわたってダウンを喫していないのに対し、オープンフィンガーグローブ(OFG)では5試合連続でダウン。それでも2勝2敗1分という戦績を残している。
そんな壱が今回の試合で見せたいのは、これまでとは違うOFGへの向き合い方だ。勢いとフィジカルを武器にする渡口に対し、50戦を経験してきたベテランは、真っ向からの殴り合いではなく、ムエタイの技術を生かした戦いを見据えている。
さらに、今の壱には自身の勝利だけではないモチベーションもある。かつて一人で練習を続けていた時期を経て、現在は後輩たちと切磋琢磨する日々。その充実した環境も、リングに上がる理由になっているという。渡口戦に懸ける思いと、壱が研究を重ねてきたOFGの戦い方に迫る。
「もう少し決め手が欲しかった」乙津戦で得た課題
──前戦は8月、乙津陸選手とのWBCムエタイ王座防衛戦でした。今、振り返るとどんな試合でしたか?
壱 試合をしていて、僕が勝っているなという印象だったんですけど、今回はラウンドマストだったので、インターバルのたびにセコンドに「今どう、今どう?」って採点を聞いていたんですよ。
そしたら、1Rが終わった時は「取ったよ」と。2Rが終わった時は「このラウンド、たぶん取られた」って言われて。そこで3Rに無限ヒザラッシュをしたんです。それで4Rが終わった時に「もう勝ってるよ」って言われたから、僕的には安心してたんですよね。
だけど、判定も割れちゃったし、後から見返してみると、もう少し決め手が欲しかったかなと、個人的には思いました。
──試合中は、自分が有利に進めている感触があったわけですね。
壱 はい。クリーンヒットももらっていなかったし、ゲームコントロールもしていたし、ミドルのヒット数でも僕かなと思ったんですけど、ムエタイと言ってもいろんな見方があるから、客観的に見たら乙津君に流れるラウンドがあったのかなと思ったりしましたね。
だから、マストシステムの難しさと、あと、自分では勝っていると思っていても、ジャッジの見方はどうなんだろうというのを、もっと考えないといけないなと思った試合でした。
──乙津選手がもっと前に出てくると想定していたのでしょうか?
壱 そうですね。彼がもっと出てくるだろうと想定していたんですよね。変な話ですけど、乙津君が勝つんだったらポイントゲームじゃなくて、バチコーン!って当てての一発だと思っていたから。
僕らはそれに合わせる練習をずっとやっていて、「自分から行かなくていいよ、相手が来てくれるから」っていう作戦だったんですよ。そしたら、思った以上に出てこなかったんですよね。
でも、俺はその時に「ここでいつもみたいに、盛り上げようと思って前に行ったら負けちゃうな」と思いました。「お前がチャレンジャーなんだから、お前が来いよ」っていうメンタルで、前に出たくなる気持ちを必死にこらえながら試合を進めてました。
──乙津選手の陣営も、ポイントで勝っていると考えていた可能性があると。
壱 そうですね。乙津君サイドの見方をSNSの何かで見たんですけど、向こうは向こうで、キックボクシング的な見方で見ると、自分がポイントで勝っていると思っていたらしいんですよ。だから向こうも「もう行かなくていいよ」って思っていたのかなって思います。でも、俺は来てほしかったですけどね。
──会見でも、相手に合わせると話していました。
壱 僕は記者会見でも言っていましたからね。「お前に合わせるから来いよ」って。全てに合わせる予定だったんですけど。でも、そこはゲームなので、乙津陣営の作戦だったのかなとも思います。
──防衛には成功しましたが、試合運びについてはどう評価していますか?
壱 判定2-1にはなったんですけど、試合運びとしては悪くはなかったかなと思います。あとは、ダウンが欲しかったかなと。一番はやっぱりKOですけど、判定勝ちにしても、やっぱりダウンは欲しかったなとは思いますね。
ダウンしても勝ち越すOFG。「向いてないと思われてるかもしれないけど」
──WBCムエタイ王座を獲った繁那戦から乙津戦まで、グローブムエタイでは連勝しています。一方、OFGではまた違った戦いをしていますね。
壱 僕って今、グローブムエタイでは13ラウンドぐらいダウンしていないんですよ。ただ、OFGでは今、5試合連続でダウンしちゃっていて。だけど、その5試合で2勝2敗1分なんですよ。
全試合でダウンしているけど、勝率は半分って考えたら、僕の試合はOFGの方が面白いだろうなと、客観的に思いますね。全部ダウンしているのに勝率50%って、あんまりいないんじゃないかなと。
──普通に考えたら、なかなかないことですよね(笑)。
壱 僕は最近、ずっとOFGの試合をやっていましたけど、WBCムエタイでグローブムエタイも挟んでみて、そこでまた学ぶところもあったんですよね。このやり方はこっちでも使えるなとか、この距離感はOFGだけでしかない距離感だなとか、交互にやったことによって勉強できたんです。
今回はちょっと、それを試してみたいなというところはありますね。
──グローブの違いによって、得られる経験も違うと。
壱 そうですね。グローブムエタイで学んだこともあるし、OFGだからこその距離感もある。そこを踏まえて、今回はやってみたいですね。
「勢いで来るフィジカルタイプは苦には思ってない」
──今回は渡口耀選手との対戦です。ここ2戦を秒殺KOで勝利している勢いのある若手ですが、どんな印象ですか?
壱 本当にメチャクチャ勢いがあるし、あと、フィジカルが強いのかなって思いますね。
フィジカルが強い選手って、テクニックがそんなになくてもパパパパーン!って勝っちゃうパターンもあって。でも、そういう選手がつまずくのって、絶対にベテランなんですよ。だから、そこに僕がなるのかなって思っていて。
──自分としては、相性のいい相手だと感じていますか?
壱 正直、得意か不得意かって言われたら得意な相手ではあるので、変に付き合わなければ大丈夫かなと思っています。
この階級はパンチャーの選手も多いですけど、古木選手がこの階級にいた時とか、繁那選手もハードパンチャーでしたけど、何だかんだで勝ってきているので。
ただ、森岡悠樹選手にはやっぱり付き合っちゃうんですよ。アイツにだけは、何か付き合っちゃうから負けちゃっているんですけど、2勝2敗ということで。だから、勢いで来るフィジカルタイプは苦には思っていないというか、一度超えた壁だなとは思っています。
──渡口選手に対しては、どんな試合をしたいですか?
壱 相手が来てくれるから、一瞬で終わっちゃうこともあるんじゃないかなと思ったりします。
──カウンターで仕留めるイメージでしょうか?
壱 そうですね。僕はもう、ぶん回しの殴り合いみたいなことをするつもりはないので、ちゃんとムエタイをした上でKOしたいと思います。 そういうところを見てほしいですね。
──渡口選手はここ2戦、秒殺KOで勝ってきています。相手の攻撃にカウンターを合わせれば、今回も早い決着になる可能性がありそうですね。
壱 そこは展開次第ですね。それこそ繁那選手も、僕とやるまでは連続して1RKO勝ちだったじゃないですか。
繁那選手も渡口選手も、相手とやり合いたいタイプなんですよね。だから、僕みたいに全く付き合わないヤツを相手にすると、たぶん一気にバランスが崩れるんですよ。
僕は殴り合いに付き合う気はないので、渡口君にも付き合いません。そういうベテランの闘い方を伝えるのもいいかなと思ってます。
──カウンター一発で決まるかもしれないし、時間をかけて仕留める展開もあると。
壱 僕ももう50戦もやっているので、相手のパターン分けはできているんですよ。こういう相手にはこう闘えばいいだろうというパターン分けは。
でも、油断はしていないです。特にOFGだとギャンブル性があるから、絶対油断はしちゃいけないと思っています。
目指すのは12月の代々木第二大会
──渡口選手に勝った先には、どんな目標がありますか?
壱 油断しちゃいけないから、その先に誰とやりたいかとか、そういうことは今は考えないようにしています。それを言っちゃうと、目の前の相手に集中できなくなっちゃうので。
でも一番考えているのは、ここで勝って12月、代々木第二大会に食い込みたいなということですね。
──まずは渡口戦に集中して、その先につなげたいと。
壱 そうですね。今は目の前の試合に集中しています。
「勝つ理由が増えた」後輩たちの存在がモチベーションに
──今、試合に向かうモチベーションになっているものは何ですか?
壱 今、センチャイムエタイジムがすごく盛り上がっているんですよ。僕がジムに入った時は先輩のプロ選手が3人いたんですけど、3人とも辞めちゃってから、4年間ぐらいは僕1人でやっていた時期があったんです。
その時期を考えると、今は出稽古の選手も含めると、後輩が9人いるんです。
──9人もいるんですか!
壱 はい。所属なのは弘・センチャイジム、蒔・センチャイジム、真秀鷹虎センチャイジムの3人なんですけど、その他に出稽古でいつも来ている選手が6人いて。だから今は、練習環境がすごく整っているんです。
後輩もたくさんいるし、みんな「壱さんが目標です」って言ってくれるので、僕もすごく楽しいんですよね。
──後輩たちの存在が大きいんですね。
壱 僕自身、仲間が勝つとこんなに楽しいんだって思うし。1人でやっていた時期があったからこそ、今の状況にすごく感謝できるなと思いますね。
以前は会長とかコーチはいたけど、一緒に毎日練習できる仲間はいなかったですから。今はこうして毎日一緒に練習してくれる仲間がいるから、勝つ理由が増えたみたいなところが、モチベーションになってますね。
──真秀選手は、12日の常葉大会で素晴らしい勝ち方をしましたね。
壱 女子であのKOは珍しいですよね。機嫌がよすぎて、もう翌日には練習を再開していましたから。
──そうだったんですね(笑)。真秀選手も、タイトルを意識するようになったのでしょうか?
壱 彼女は今までベルトとかに執着がなかったんですけど、「WBCムエタイのベルトがカッコいいから欲しい」って言うようになって。
相手の山本“魂武羅”知美選手はWBCムエタイ日本ランキングの3位だったので、これで真秀が一気に射程圏内に入ったなと思って。彼女にも頑張ってほしいです。
──練習への取り組み方も変わってきたのでしょうか?
壱 彼女は最近、頑張り始めたんですよ。前までは練習にも来たり来なかったりだったんですけど、最近、急に気合いを入れるようになって、その練習の成果が出たかなと思います。
「REDルールが一番面白い」ということを認知させたい
──今回の大会では、UNLIMITEDにも注目カードが並んでいます。同じ興行の中で、キックボクシング側として負けていられないという気持ちはありますか?
壱 同じ興行の中だから、ライバル視とかはしていないですけど、僕自身、一番面白いと思うルールがOFGのREDルールなんですよ。
首相撲からくっついても、そこからまた攻防があるところも面白いし。その面白さをREDルールの選手が見せないといけないし、REDルールが一番面白いということを認知させたいなとは思ってますね。
──最後に、今回の試合で一番注目してほしいポイントを教えてください。
壱 OFGの闘い方を研究した僕を見てほしいですね。今までとはOFGに対する理解を変えたので、そこを見てほしいと思います。
──OFGではダウンが続いていることもあり、苦手なイメージを持たれていると感じますか?
壱 僕って今、たぶんOFGに向いていないと思われているじゃないですか。ボクシンググローブではダウンしないのに、OFGではあんなにダウンしているから、「アイツ、向いてねえじゃん」と思われているかもしれないけど、そんなことはないですよと。
今までは僕がOFGムエタイという競技をちゃんと勉強していなかっただけで、今はしっかりOFGと向き合って研究してきたつもりなので、OFGに対して変わった僕を見てほしいです。
──分かりました。ありがとうございました!
PROFILE
壱・センチャイジム
所属:センチャイムエタイジム
生年月日:1997年8月15日
出身地:沖縄県那覇市
身長:173cm
戦績:
キック戦績
44戦 31勝 (10KO) 11敗 2分
MAROOMS presents KNOCK OUT.69
開催日時:2026年10月23日(金)
開場: 17:00
開始: 17:30
開催場所:後楽園ホール
https://knockoutkb.com/events/marooms_presents_knock_out69

