8・29 後楽園ホール 「新たな始まり」と銘を打つKNOCK OUT.56~NEW BEGINNING~
タイ、中国からの強豪を迎え八角形リングを使用した本大会の注目試合を 名だたる格闘メディアにコラム執筆を依頼、 本企画の2日目は昨日に続きMMAPLANET 高島学氏のコラムを公開!
高島学氏には KNOCK OUT-UNLIMITEDスーパーフェザー級 「カルロス・モタ vs 中村悠磨」がどう映るのか。是非ご覧ください。
「元UFCファイターとプロMMA経験なし、無制限の妙」
rnrn6月22日の夜、「UNLIMITEDは凄くハイペースで戦うから、将来外国人選手とやり合うことを考えると相当に良い経験になりますよ」というメッセージが、和術慧舟會HEARTSの大沢ケンジ代表から届いた。その大沢代表が当日行われたKNOCK OUT代々木第二体育館のUNLIMITEDルールの試合に送り込んだ3名の所属選手のうち、1人が中村悠磨だった。MMAではプロ経験のない中村はUNLIMITEDルールでプロの舞台を初めて踏み高木晟至に勝利した。

この時、大沢代表が書き記していた「将来外国人選手とやり合うこと」というのは、MMAファイターとして海外に挑戦、あるいは国内で国際戦に挑むことを想定していたに違いなく、わずか2カ月後に中村がUNLIMITEDルールでカルロス・モタと戦うという展開は見えていなかったはずだ。同大会で初めてキックルールに挑み、初代KNOCKOUT-BLACKバンタム級王者の古木誠也にKO負けしたとはいえ、モタは元UFCファイター。その世界最高峰への登竜門LFAでフライ級のベルトを巻いた猛者だ。
同時に大沢代表は「UNLIMITEDルールは凄く良い経験になるのに負けてもMMAレコードに傷がつかない。コンバットサンボやIMMAF(※アマチュアMMAの世界最大の組織)のように」と力説していたが、まさに中村にとって今回のモタ戦はとてつもない経験の場となるだろう。繰り返すが、モタは元UFCファイターで中村はプロの経験がないMMAファイターだ。
しかも、中村に勝機があるのがUNLIMITEDルールの妙といえる。打撃に相当の自信を持っているモタだが、あくまでもMMAのなかでの打撃だ。昨年12月にモタにとって初挑戦となったUNLIMITEDルール=栗秋祥梧戦で、打撃では分が悪いと判断した彼は徹底的にテイクダウンからグラウンド勝負を仕掛けた。結果、完勝というべき内容で判定勝ちを手にしている。ただし、8カ月前と今のUNLIMITEDルールを比較するとグラウンドでのブレイクのタイミングが違う。少しでも拳を落とす勢いがなければ、試合は即スタンドに戻る。

このブレイクの速さが、ハイペースの過酷な戦いの要因となっている。モタがテイクダウン&パウンドという攻めをMMAの意識、MMAの間・呼吸で戦うと、逆に彼自身が削られ体力を消耗することになるだろう。
中村陣営としてはUNLIMITEDで如何にモタを攻略するのか――。技術的な要素だけでなく、レフェリングやジャッジ面からも研究しぬいているはず。このMMA的見地からは驚速といって過言でないブレイクのタイミングがあれば、打撃のカウンターは警戒しても、テイクダウンをスルーできる。なんせ、倒されても足を一本でも絡めばスタンドに戻ることができる。仕掛けられる数だけ倒され、その分だけブレイクからスタンドに戻る展開が続くと、3分×3Rの間にモタは必ずガスアウトを起こす。
いってみればテイクダウンディフェンス・フリー。そこまで極端な戦略を用いても全く問題ない。なんせ中村&和術慧舟會HEARTSにとって、UNLIMITEDは勝敗に関係なく最高の経験を積む場だからだ。テイクダウンされ放題という選択をして全く問題ない。
それ以前に中村とモタの身長差は実に22センチもあり、リーチの差はそれ以上だろう。それもモタは基本、アグレッシブに攻めてくる。遠い距離から、思い切り踏み込んでくるに違いない。その際、ガードが空くようなことがあれば中村はモタの顔面を射抜くことができる。上記のような極端な戦術を用いない場合でも、スタンド打撃のスキルだけでいえば中村にも、純然たる勝機がある。

他方、モタがMMAの試合機会がないからUNLIMITEDルールを戦うのはなく、ここで結果を残すという気持ちで来るなら怖い。上記のMMAの間やブレイク、そして距離感をUNLIMITEDにアジャストしてきたら、中村は人生で立ち会ったことがないようなプレッシャーに晒されることになる。フィジカルとキラーインスティンクトがこのルールに融合すれば、組み中とテイクダウン後にとてつもない恐怖と痛みを中村に与える可能性をモタは持っている――が、果たして……。
執筆
MMAPLANET 高島 学

