8・29 後楽園ホール 「新たな始まり」と銘を打つKNOCK OUT.56~NEW BEGINNING~

タイ、中国からの強豪を迎え八角形リングを使用した本大会の注目試合を 名だたる格闘メディアにコラム執筆を依頼、 本企画の3日目はゴング格闘技 熊久保英幸氏 のコラムを公開!

熊久保英幸氏には KNOCK OUT-BLACK女子ライトフライ級 「ぱんちゃん璃奈 vs アム・ザ・ロケット」がどう映るのか。是非ご覧ください。

「ぱんちゃん璃奈引退へのカウントダウン第1戦は“覚悟”が試される」



「私、ラスト1年で引退します。格闘技人生最後盛り上げられるように、みんなに楽しんでもらえるように頑張ります」

 記者会見での突然の引退発表。これまでKNOCK OUTをけん引してきた中心選手の一人であるぱんちゃんの、カウントダウン第1戦が今大会で行われる。

 正直なところ、ここ3戦のぱんちゃんは精彩を欠いていた。かつてのアグレッシブさや要所要所で出るインパクトのある攻撃が鳴りを潜め、気持ちや気迫が伝わってくるファイトではなくなっていた。モチベーションや体調不良が影響しているのだろうが、本人も観客もスカッとするような内容の試合を見ることが出来ていない。今回の引退宣言も「ラスト1年って自分で決めたら頑張れると思ったので」と、自分に鞭を打つ意味でもあると語っている。





 そんなぱんちゃんに用意された今回の相手は、RIZINやDEEP JEWELSで活躍するMMAファイターのアム・ザ・ロケット。元々はムエタイ選手として80戦以上のキャリアを持ち、WMC女子ミニフライ級王座、WPMF女子ミニフライ級王座とムエタイのメジャータイトルも獲得しているストライカーだ。

 ぱんちゃんがMMAファイターと戦うのは今回が初めてではない。3戦目でパク・シウ(現DEEP JEWELSストロー級王者)と対戦しており、唯一の黒星を付けられたルシア・アプデルガリムもMMA経験者である。キックボクサーとは違うMMAファイターの距離感やフィジカルの強さに関しては驚くことはないだろう。しかし、立ち技での実績はアムが他を圧倒する。加えて蹴り技が強いという点はぱんちゃんにとってかなり不安要素だ。

 というのも、技的には顔面前蹴り、組んでのヒザ蹴りがぱんちゃんのファイトスタイルの要であり、特にフィジカルの強さを活かした組みの強さは何度も彼女の窮地を救ってきた要素である。しかし、その全てにおいてアムはぱんちゃんの上を行く。これまでアドバンテージだったものが通用しない可能性があるのだ。本人が言うように苦戦は免れないだろう。

 では、ぱんちゃんが圧倒的に不利かと言うとそんなことはない。やはりコンスタントにキックボクシングの試合を続けてきたという点で、試合運びやポイントの取り方、スタミナ配分などで差をつけることは可能だと見る。それに何と言っても気の強さがハンパではない。体重差のあるルシアに致命的な打撃をもらっても、攻撃こそ最大の防御なりとばかりに気迫で前に出た姿は、格闘家・ぱんちゃんの強さが垣間見えたシーンだった。ラスト1年と決めたことによる“覚悟”も、ぱんちゃんの背中を押すだろう。



 カウントダウン初戦にして、アムはこれまでのキャリアの中で最強の敵となるかもしれない。ここで試されるのは“覚悟”だ。練習の濃さや戦略は当然のこととして、覚悟こそが勝敗を分けるキーポイントとなるのではないか。これまで築き上げてきた「ぱんちゃん璃奈」という存在の覚悟、KNOCK OUTを背負ってきた覚悟、女子キックボクシングをけん引してきた覚悟…ありとあらゆる覚悟がぱんちゃんの両手両足に宿れば、アムという硬い壁を突破することが出来るかもしれない。

 これまでも、もしかしたら負けるのではないかと思われたMISAKI戦、sasori戦といった難敵との戦いでも、ぱんちゃんの覚悟は決まっていた。本当に様々なことがあったキックボクサー人生の最終章で「いろいろあったけれど、いい選手だったよな」と最後に言われるかどうかは、この試合にかかっている。

執筆
ゴング格闘技
熊久保 英幸