8・29 後楽園ホール 「新たな始まり」と銘を打つKNOCK OUT.56~NEW BEGINNING~

タイ、中国からの強豪を迎え八角形リングを使用した本大会の注目試合を 名だたる格闘メディアにコラム執筆を依頼、 本企画の5日目もバウトレビュー 井原芳徳氏 のコラムを公開!

井原芳徳氏には KNOCK OUT-REDライト級 「下地奏人 vs ゴンナパー・ウィラサクレック」がどう映るのか。是非ご覧ください。

「OFGムエタイ全盛時代に合わせリニューアルした“ムエタイ大魔神”ゴンナパーのファイター人生を振り返る」



6月22日のKNOCK OUT代々木競技場第二体育館大会で、32歳のベテランタイ人のゴンナパー・ウィラサクレックが、日本人トップ選手の一人・重森陽太を3R右フックでKOし、KNOCK OUT-REDライト級王座を獲得した。王者となったゴンナパーは8月29日の後楽園ホール大会での下地奏人とのノンタイトル戦を控える。8月の大会のサブタイトルは「NEW BEGINNING」だが、ゴンナパーは一足先に6月の重森戦において、ファイター人生の第4章の“新たな始まり”を告げた感がある。





 ゴンナパーは多くのタイ人選手同様、子供の時から生活のためにムエタイのリングに上がり、日本で試合をする前から100戦以上を経験していた。タイ時代がファイター人生の第1章だとすれば、2010年11月6日、ディファ有明で野呂裕貴を3R右肘打ちでKOした試合が、第1章の終盤か、第2章の始まりに位置づけられる。その時の階級はバンタム級。その後2年ほどタイでの試合が中心だったが、2013年から日本を主戦場とし、本格的な第2章に突入する。ライト級まで階級を上げ、水落洋介、T-98、ハチマキ、ヤスユキらを次々と撃破し“日本人キラー”として名を馳せる。当時はKNOCK OUTの前身のREBELSにも上がっていた。

 第3章はK-1時代だ。当時、ゴンナパーの先輩・ゲーオが初代K-1スーパー・ライト級王座に君臨し、16年6月、同級世界最強決定トーナメントでも優勝し無双状態だった。その3カ月後の9月のK-1を、ゲーオが病気のため欠場し、急きょ代役を務めたのがゴンナパーだった。ゴンナパーは肘無し・首相撲禁止のK-1ルールにおいても、サウスポーからの左のミドル、ローキックを蹴りまくり、当時の日本勢の主力の山崎秀晃を圧倒の末に判定勝ちし、K-1のファンや関係者に衝撃を与える。その後2戦だけムエタイに戻ったが、翌17年からはK-1に専念する。18年4月には佐々木大蔵を下しKrushライト級王座を獲得する。20年12月には林健太を下し、ついにK-1ライト級王者となる。21年7月の初防衛戦で朝久泰央に延長判定負けしベルトを失うが、22年6月のTHE MATCH東京ドーム大会ではRISEの白鳥大珠を1R右フックでKOしインパクトを残した。だがその2カ月後の8月の岩崎悠斗戦でKO勝ちした試合を最後にタイに戻り、休養生活に入る。昨年4月のKrushで約2年ぶりに復帰し、塚本拓真に判定勝ちしたが、7月のK-1では与座優貴に1R KO負け。9月のKrushでは上野空大に3R TKO勝ちしたが計量で1.65kgもオーバーしてしまう。

 2年のブランクを経て、かつてのゴンナパーの威光が薄れた感が否めなかったが、今年2月、KNOCK OUTに初参戦し、ベースとするムエタイに近いREDルールでの試合が組まれたことが転機となる。K-1同様、サウスポーからの左ミドルを駆使しつつ、K-1では禁止の首相撲からの膝蹴りや崩しも絡め、水を得た魚のような動きで古村匡平を翻弄し判定勝ちする。6月の代々木大会では早速、重森陽太のREDライト級王座に挑戦する。2R、開始すぐにゴンナパーが前に出て、左の前蹴りのフェイントからの左ストレートでダウンを奪うと、3R序盤には重森の蹴りをブロックしてからの右フック一撃でKOした。REDルールが昨年12月からオープンフィンガーグローブ着用となり、元々精度が高くフェイントの絡め方が絶妙なゴンナパーのパンチスキルがより活き、ゴンナパーの第4章の幕開けを印象付ける勝利だった。妻子や故郷の家族を養うため、大好きな酒を止めて節制したことも功を奏したようだ。

 “ムエタイ大魔神”の愛称でK-1ファンからも愛されたゴンナパー。当然、ムエタイルールのほうが合っているが、K-1ルールの武器の制限から解き放たれ、OFGという新たな武器も得て、第2章時代からリニューアルしたムエタイテクニックを第4章では開拓しそうな予感がする。

 KNOCK OUTでは8月大会でのゴンナパーの相手を募集したところ、1階級下の下地が名乗りをあげた。下地は14戦12勝(4KO)2敗の20歳。昨年12月のKNOCK OUT-REDスーパーフェザー級王座決定トーナメントでは準決勝でロムイーサンを1R右ハイでKOしたが、決勝では久井大夢の首相撲につかまり判定負けした。今年4月の試合を欠場し、8カ月ぶりのリングへ。下地にとってゴンナパーは「小学校の頃からK-1で活躍していてテレビで見ていた選手」で、「パンチのスピードは自分の方が上」「攻撃に対しての目の良さで対抗できる」と攻略に自信を示す。下地は元の所属先を離れフリーになっての初戦で、強豪ゴンナパー戦は下地にとっての「NEW BEGINNING」“第2章”の幕開けとも言えそうだ。





執筆
バウトレビュー
井原 芳徳