「優勝して、100万円をぶん投げてやりますよ!」



9.13「優勝賞金100万円 THE KNOCK OUT FIGHTER UNLIMITED -57.0kg 1DAYトーナメント」に出場する松本隼斗。戦績データが一切ない彼は、トーナメント選考会が初めての試合出場だったという。見た目も、語られるエピソードも他のファイターとは違いすぎる中、どんな戦いを見せようとしているのか?

──この取材にあたってトーナメント参加選手の情報を8人分いただいたんですが、選手としての情報が一番少なかったんですよね。

松本 そうですよね。試合に出ること自体、このトーナメントの選考会が初めてだったので。

──そうなんですね。現在35歳ということですが、そもそも格闘技を始めたのはいつだったんですか?

松本 20代前半の時に、最初キックボクシングジムに行っていたんですけど、そこは数年でやめて、3年前から金原正徳さんのジムでお世話になってます。

──でも、キックの頃から試合には出なかったんですよね。

松本 そうですね、格闘技自体はすごく好きだったから練習はやってたんですけど、試合に出ようという気持ちはなかったので、全部お断りしてました。再開してからもずっと断ってたんですけど、前回の61kgトーナメントの時に金原代表から推薦していただいたんですね。僕は金原さんのファンで、尊敬してるファイターだったからALPHAに入ったぐらいだったので、推薦していただいて初めて出ようと思ったんですけど、1週間前に練習で目と鼻の骨を折ってしまって、断念してしまって。それで今回、57kgトーナメントで初めて出ることになりました。

──話が戻りますが、キックボクシングを数年やっていて、一度はやめたんですよね。そこから再開するまでに、けっこう時間が経ってますが。

松本 前のジムの時は、当時いた会社の関係で通えていたところもあったんですよ。その会社をやめたのでジムもやめたんですが、その後独立して、今は会社を5つ経営してまして。

──マジですか!

松本 はい(笑)。従業員のおかげで、忙しいとかはないんですけど。最近はちょっと時間ができて、もともと総合格闘技が好きだったので、家の近くに以前から大ファンの金原さんがやっているALPHAがあったので、いろいろ練習しに行こうかなと思って、また始めたっていう感じですね。

──なるほど。そして、選手としての情報は一番少なかったんですけど、一緒に送られてきたファイター写真は、逆に情報量が一番多くてですね。

松本 ハハハハハハ! ですよね!(笑) 選考会での試合も自分なりのプランで進められてたというのはあったんですけど、微妙な勝ち方だったので、僕としては正直、出る資格はないなと思ってたんですよ。むしろもうお声がけいただくことすらないかなと思ってたんですけど、後から協議していただいた結果、お声がけいただくことになったというのは、この風貌的なところもあるのかなとかは思ってました(笑)。薄々そういうのは感づいてます(笑)。

──格闘家でタトゥーが入ってる人は多いですけど、その中でもかなり気合いが入ってますよね。

松本 そうですね、首まで入っちゃってますからね(笑)。

──ええっと……そういう稼業ということなんでしょうか?(小声)

松本 いやいや(笑)。僕は両親がいないというか……お母さんは存在するんですけど、一緒に暮らしたこともなくて。それでずっとおじいちゃん、おばあちゃんに育てられてたんです。僕の地元ってそういう環境の人間が多くて、あんまり治安のいい街ではないんですね。なので、僕自身はそういう稼業の人間とかでは当然ないんですけど、昔からそういう、ヤンチャしてた人間たちとはずっと一緒にいたので、それの名残っていうのがありますね。あと、福生っていう街が隣町にあって、米軍基地が近いんですね。今回、入場曲も地元のラッパーの曲を使うんです。僕自身、ヒップホップは別に好きじゃないんですけど(笑)。でもそういう文化が根付いてて。僕のタトゥーは洋彫りなんですけど、まあもともと、あまり偏見がない街と言いますか、タトゥーを入れても親に怒られないというか、そういう家庭環境の人間が多い街だったから、勝手に増えていったみたいな感じですね。

──ついでに、以前から聞きたかったことを聞いちゃうんですが……それだけ入っていて、皮膚呼吸って大丈夫なんですか?

松本 どうなんですかね? タトゥーがない状態が分からないので、何とも言えないですね(笑)。でも有利・不利で言ったら、科学的には不利みたいですけど、あんまり気にはしてないですね。

──スタミナ面とかは?

松本 ウチのチームって強いファイターもたくさんいたりして。プロでも戦績のいい選手たちがたくさんいて、KNOCK OUT出場の資格がまだ残っている強い選手たちがいる中で推薦していただいてるので、僕自身も当然、不安は常にあって。だから練習を頑張れるんですけど。周りからしても僕からしてもスタミナ面はそういった意味でも問題ないですし、技術的なところも含めて、全然大丈夫だとは思いますね。もしこのタトゥーがなかったら、もっといいパフォーマンスは出てたかもしれないですけど(笑)。

──さらに35歳というのは、初めての試合としてはかなり年齢が上だと思いますが。

松本 それも問題ないです。年齢はただの数字だと思いますし、今日もプロ練で5時間ぐらいの練習をこなしてきて、体力的にも問題ないです。打撃の反応とかはあるかもしれないですけど、僕の場合は逆にこれまで試合してないので、むしろフレッシュな部分もあるかなと思いますし、これまで35年間で人よりもいろんな経験が多い分、メンタル面とかではかなり優位になるんじゃないかなと思ってますし。

──そこでこのUNLIMITEDルールについては?

松本 まだKNOCK OUT自体もやっぱり手探りというか、固まりきってないのかなというイメージがあるんですけど、その目指す場所に関してはすごく面白いのかなと思ってます。立ってよし、殴ってよしっていうコンセプトがある通りで。ただ、そこの微妙なルールのラインだったり、ブレイクの時間だったりとか、どうやれば盛り上がるのか、どうやれば盛り下がるのかっていうのは逆に今こういうトーナメントとか、大きい大会だったりで対戦カードを増やしていく中で、みんなで作ってる段階なのかなと思うので、そこの感覚がすごく面白いなというところはありますね。僕としては、MMAなのかキックなのかってところで考えていくと、「寝かせるのがありのキックボクシング」というような感覚で考えてるので、そのルールの中でどう試合を作っていくかというのを、今考えています。

──トーナメントの組み合わせは前日抽選で決定して、優勝するには3試合勝つことが必要なわけですが、どう勝っていきたいですか?

松本 どうでしょうね。まず当然、皆さんそれぞれに応援していただいてる方がたくさんいる中で、まず「勝利」が第一と考えた時に、僕はMMAのジムで、金原さんや他のファイターにしっかりとMMAで揉まれてきてるので、やっぱり「MMA」を見せていきたいなという部分はすごいあるんですよ。もちろん盛り上げたいっていう気持ちも当然あるんですけど、僕みたいに、まだプロでもアマチュアでも試合に出てもいない以上、そういった発言もまだおこがましいですし、まずは100%、MMAの練習をしっかりと試合に出せればなと思ってます。

──優勝賞金が100万円です。会社を5つ経営してる身からすると、100万円ってどうなんでしょう?

松本 いらないですね、そんな金って感じですね(笑)。すでに、「ジムに寄付します」って宣言してますし。

──お金が目的やモチベーションではないと。

松本 そうですね。最初、61kgの時に推薦していただいた時に、僕みたいな試合の経験もなく、僕よりも強い選手がいる中で、何かを評価していただいて推薦してくれたという気持ちが嬉しかったので、それで初めて試合に出ようと思ったという経緯もあったんですよ。今回は本当にお金というよりも、そんな風に期待してくれているジムの皆さんとか、代表も含めて、そういった人たちにいい試合を見せたいなっていうのが一つ。あと、息子が16歳で、この前修斗でアマチュアデビューしたんですよ。

──そうなんですね!

松本 今、2人で同じ環境で練習してるというのは僕の中で大きくて。すでにアマチュアデビューして、KO勝ちとかもしてる選手ではあるんですけど、僕もこの歳になっても頑張って努力している姿を見せていくというところは、他の親にはできないことを教えられてるのかなと思うんですよね。今日も息子と一緒にスパーリングしたりしてるので、そこはやっぱり僕の中で今一番、モチベーションになってます。そこが今、僕の戦っている理由かなと思いますね。

──なるほど。ここまでのお話だと、この先はプロでやっていきたいというわけではない?

松本 やっぱり選考会の試合に出てすごく楽しかったですし、試合までの過程も含めて、やっぱり僕としては今まで経験したことない経験で、試合に出たことによって、格闘技の楽しさの視野がまた広がったといいますか。楽しいなと感じたので、その舞台とかルールは別ですけど、何かしら自分が飽きるまではやっていこうかなとは思ってます。その過程でプロにたどり着くのであれば、プロとして戦おうと思ってますし、たどり着かないのであれば、たどり着かないでこのまま練習してるんでしょうし。自分のステップに合わせて進んでいければなと思うので、目標というと、このままずっと練習をして、しっかりと頑張っていく中で、チャンスがあったものに関しては挑んでいこうかなと思っています。

──では最後に、改めてこのトーナメントへの意気込みをいただけますか?

松本 今回経験だったりとか含めて、一番未知数な選手だと思うんですけれども、だからこそ失うものも何もないですし、インパクトだったりとか、見た目の部分で注目もいただけていると思うので、それに恥じないようにガッツリ前に行って、どんどん倒していって優勝して、100万円をぶん投げてやろうと思います。

──分かりました。ありがとうございました!

プロフィール
松本 隼斗
所属:リバーサルジム立川アルファ
生年月日:1989年9月21日生 出身:東京都昭島市 身長:170cm