渡慶次幸平「対抗戦に出るミャンマーの選手たちはここで勝つか負けるかで人生が変わる。この試合にかける気持ちと覚悟が違う」
5・15「MAROOMS presents KNOCK OUT.64」ではKNOCK OUTとミャンマーラウェイの3対3・対抗戦が実現。ミャンマーラウェイはグローブを着用せずバンデージのみで戦う立ち技格闘技で、パンチ・蹴りだけでなくヒジ打ちや頭突きも認められることから“世界一過激な格闘技”と呼ばれている。このKNOCK OUTとラウェイの危険な遭遇について、自身もミャンマーラウェイのベルトを巻いたこともある渡慶次幸平さんを直撃。渡慶次さんが感じたラウェイの選手の強さ、そしてファイターとしての可能性とは?
――今大会ではKNOCK OUTとミャンマーラウェイの対抗戦が組まれました。渡慶次さんも現役時代はミャンマーラウェイでチャンピオンにもなっていますが、初めに今回の対抗戦の話を聞いた時は率直にどう思いましたか?
渡慶次 僕は子供支援も含めて色々とミャンマーに支援活動しているのですが、ミャンマーの選手が日本に来て活動する機会は特定技能などで就職するという形がほとんどなんですね。そういう中で僕は工場にミャンマー人選手を紹介したり、大阪・関西のジムにミャンマー人選手を2人選手兼トレーナーとして派遣したり、そういった支援活動も続けています。それで今回(山口元気)会長から『ミャンマーの選手で対抗戦が出来る選手いない?』と相談されて、これも一つの支援活動になるなと思ったのが最初の反応ですね。あとはミャンマーラウェイの選手の試合はとにかく楽しいので、間違いなく面白い対抗戦になると思います。
――ラウェイは“世界一過激な格闘技”とも呼ばれていますが、初めて渡慶次さんがラウェイの試合をした時はどんな感想を持ちましたか?
渡慶次 自分が初めてラウェイの試合に出たのは、2017年6月にTDCホールでやった大会で、いきなり向こうのチャンピオンとやったんですよ。
――ラウェイ初参戦で現役チャンピオンと試合することに躊躇はなかったですか?
渡慶次 当時はお金がなかった時期だったので、ラウェイはファイトマネーがよかったからOKしました。ただ本当に命を落とすかもしれないという覚悟だったので、あの時は遺書を書いてから試合をしましたね。ラウェイを始めて3~4戦目までは毎回遺書を書いてました。ラウェイは頭突きと故意ではない金的もありで、後頭部を殴るのもOKなんですよ。他の格闘技はなんで後頭部への攻撃が禁止かというと、後頭部や脊髄への攻撃で下半身不随になったり、後遺症が残るからじゃないですか。でもラウェイは1000年前のルールをそのままやっているので、そういう部分がOKなままなんです。またラウェイは1回ダウンや失神しても、2分くらい休憩を取ったら再開になるんです。どの団体もKO負けした選手は45日間は試合が出来ないというルールがあるなかで、かなり危険ですよね。
――通常の試合とは緊張感や恐怖心も違いましたか?
渡慶次 ラウェイの試合で相手に向かい合った時の一番いい例えは、両手に刃物を持っている相手と向かい合っている感覚です。ボクシンググローブで殴られるのも痛いは痛いですが、ラウェイの場合は素手なので殴られると激痛だし、すぐ切れて流血するんですよ。相手が刃物を持っていたらうかつに近づけないじゃないですか。そういう感覚ですね。
――なるほど。相手のパンチが顔に触れるだけでスパっと切れてしまうわけですね。
渡慶次 かすって切れるのも痛いし、ガツンと殴られるのも痛いので、とにかく激痛ですね(苦笑)。ボクシングみたいにパンチの距離で頭を振って、ということはほぼないのでラウェイは完全に(ボクシングやキックとは)別競技だと思います。
――渡慶次さんはどこがラウェイの選手の一番の強さだと思いますか?
渡慶次 圧倒的にハングリーさが違うと思います。ミャンマーの一般的な月収は日本円にすると1万5000~2万円で、医者や弁護士でも3万~5万円ぐらいなんです。ラウェイの場合、首都のヤンゴンで開催される年間チャンピオンを決めるビッグマッチに出るチャンピオンクラスのファイトマネーでも何十万円レベルなんです。で、そのくらいのファイトマネーをもらえるラウェイの選手は数名いるかいないかという世界です。そうやってラウェイのトップ選手は他の仕事と比べても圧倒的なお金をもらっているから、選手一人で親戚一同や一族全員を養っていたりするんですよ。
――ラウェイの選手は色んなものを背負って戦っているんですね。
渡慶次 KNOCK OUTのKOボーナスはミャンマーの選手からするとものすごい大金なので、今回の対抗戦に出る選手たちはここで勝つか負けるかで人生が変わると思います。
――まさに人生をかけた戦いですね。
渡慶次 しかも自分の人生だけじゃなくて、親戚・一族全員の人生をかけた試合なので、なおさら試合にかける気持ちと覚悟が違いますよね。
――過酷なルールを戦っているというだけではなく、格闘技に対する覚悟そのものが違う、と。
渡慶次 選手を派遣してくれるミャンマーラウェイ連盟の方々にとっても、今回の対抗戦で選手たちがいい試合を見せれば、他の選手たちにも(KNOCK OUTで)試合をするチャンスが巡って来るじゃないですか。逆にここで選手が結果を出せなかったらミャンマーの選手を呼んでもらえなくなる。自分たちの勝ち負けだけではなく、ミャンマーの選手たちの未来がかかっている意味でもかなり気合いが入っていると思いますね。
――僕たちが思っている以上に今回の対抗戦はミャンマーの選手にとってビッグチャンスなんですね。
渡慶次 今KNOCK OUTにはアジアからタイ、中国、カンボジアから選手が出ていますが、そこにミャンマーの選手たちが入ってくれば、まさに僕が出来る一番のミャンマーへの支援かなと思います。だから僕としてもミャンマーの選手に対して『頑張れよ!お前ら!』という気持ちです。
――ラウェイの選手たちは全員タフな印象があるのですが、渡慶次さんから見ていかがですか?
渡慶次 ラウェイは素手で殴り合うので、先ほど話したように痛みは大きいのですが、脳は揺れないんですよ。逆にボクシンググローブはグローブの重さがある分、脳が揺れやすくてKOが起こりやすい。それもあってラウェイの選手は打たれ強くてタフなんだと思います。
――またラウェイの選手は自分から距離を取ったり、下がることがないですよね。
渡慶次 ラウェイは足を使って戦うことが禁止なんです。いわゆるアウトボクシングをすると、レフェリーから『逃げ回るんだったら失格にするぞ』と注意される。しかも判定決着がないので、自然とみんな前に出て戦うスタイルになっていきますよね。
――最近はラウェイの選手たちがONE Championshipをはじめ、ミャンマー以外のイベントにも積極的に出ている印象があります。ミャンマーラウェイ全体にそういった流れがあるのでしょうか?
渡慶次 ミャンマーという国自体、(2021年に)政変が起きて以降は経済状況が悪いこともあって、ラウェイをやる選手そのものが減っていて、僕が初めてラウェイに出た時期と比べるとラウェイが下火になっている状況ではあります。そういう中で海外に行けば稼げるチャンスがあるということで『ONEに行くぞ!』という流れはあると思いますね。ただラウェイは判定がない競技なので、彼らが判定がある試合に出ると勝てないんですよ。判定勝ちの戦い方が分からないから。それで去年ミャンマーの関係者からアジアのシーゲームに出場するキックボクシングのミャンマー代表のコーチをやってほしいという依頼が来て、約10日間、代表チームの強化合宿に参加したんです。その合宿では僕がポイントの取り方や判定での勝ち方を指導したんですけど、本番のシーゲームでメダルを2~3個獲ったんです。そうやって技術や勝ち方を教えれば結果を出せる。ミャンマーの選手はそういったポテンシャルの高さを間違いなく持っていると思いますね。
――最近ONEに出ているラウェイの選手たちでも、タイのジムに所属して試合をしているパターンも増えていると聞いています。
渡慶次 実際ラウェイの選手たちはめちゃめちゃ練習するんですよ。ただそこでテクニックを教えられる人がいなかった。だからテクニックが一切ないまま、ポテンシャルだけで戦っていたんです。でもその状況が変わりつつあるので、ラウェイの選手がテクニックを覚えたら、これから文明開花が起こると思います。
――これからラウェイ出身で立ち技格闘技のトップを狙える選手たちがどんどん出てくる可能性もあるわけですね。
渡慶次 僕がミャンマーの代表チームに三日月蹴りを教えたので、これからラウェイの選手で三日月蹴りを使う選手が出てくると思うんですよ。そうやってどんどん新しい技術を覚えたら……ミャンマーの選手は末恐ろしいですね。
――今回の対戦カードで言えばONEでも活躍するスーパー・ヤイ・チャンとゴンナパーの試合は日本以上にミャンマーやタイで注目されているカードですよね。

渡慶次 格闘技においてミャンマーとタイはライバル国で、特にミャンマー側からすると、ゴンナパーは世界的に名前があるファイターで、ヤイ・チャンがゴンナパーに勝ったらめちゃくちゃすごいことだと思いますよ。それこそ銅像が建つレベルじゃないですかね。ヤイ・チャンもゴンナパー戦には相当かけてくると思います。
――渡部蕾選手と対戦するダン・マイ・トゥエイはラウェイ注目の若手ファイターなんですよね。

渡慶次 はい。ダン・マイ・トゥエイはラウェイのなかでは上手くて強いタイプですね。それが今回のように相手がキックボクシングの選手になった時、その上手くて強いがどこまで強いに振れるかどうか。僕もラウェイ出身みたいなもので、僕がMASATO BRAVELYくんとやった時、絶対に僕よりMASATOくんの方が上手いんですよ。でもいざ試合になったら僕がMASATOくんを飲み込むことが出来た。ダン・マイ・トゥエイからすると、ああいう試合展開が理想だと思います。
――分かりやすい解説ありがとうございます。そうなるとテクニシャンタイプの重森陽太選手がラウェイの選手=ソー・バー・ヘインと対戦した時にどんな化学反応を起こすかも楽しみです。

渡慶次 重森も子供が生まれたばっかりなんで頑張って欲しいんですけど、ソー・バー・ヘインは本当に気持ちが強い選手なので最後の最後まで絶対に諦めないと思うんですよ。重森が前蹴りやミドルで距離を取って、ソー・バー・ヘインが入ってきたところにヒジを合わせたりすれば重森が勝つだろうし、ソー・バー・ヘインがそこを飛び込んでガチャン!とぶつかる場面を作ればソー・バー・ヘインにもチャンスがあると思います。だからこの試合は…どっちも頑張れ!って感じですね(笑)。
――今の予想をお聞きするとヤイ・チャンvsゴンナパーも気が強いゴンナパーが打ち合いに応じるとヤイ・チャンが倒す可能性も上がりますよね。
渡慶次 ゴンナパーが平本(蓮)くんとやった時にガードの真ん中を打ち抜かれてKOされたじゃないですか。ヤイ・チャンも似たようなパンチを打つタイプなので、ヤイ・チャンがああいう展開を作って真ん中を打ち抜くことが出来たら、持っていく可能性はあると思います。
――渡慶次さんのインタビューを通じて、より今回の対抗戦が楽しみになりました。
渡慶次 今回日本に来るのはミャンマーラウェイの倒すか倒されるかのルールで戦って、そこで生き残ってきた選手たちなので、それを試合で見せてほしいですね。もし変な技術戦でクソつまらない試合をやっていたら、解説席を飛び出して『何やってるんだ!お前ら!』って怒鳴りにいきます(笑)。

